タンス、ブロック塀、倒れてくると危ない物とは?

タンス、ブロック塀、倒れてくると危ない物とは?

2024年10月25日
すぐ実践できる防災情報

〇小学生は知っているブロック塀の危険

2018年6月18日に発生した大阪北部地震は、最大深度6弱を記録した地震です。この地震では、ブロック塀が倒壊し、その下敷きとなった小学生の尊い命が失われました。それ以前からもそうでしたが、この地震を契機に、小学校の防災の教育では、ブロック塀の危険性への注意喚起が強くなり、今ではほとんどの小学生が、ブロック塀は危険なものであると認識しているようです。
ところで、ブロック塀はなぜ危険なのでしょうか。それは、重いからです。私たちの身体は強い圧迫を受けると、心臓、肺が重みによって動かなくなり死に至ります。データによれば、自重の4倍の重さがかかった場合は10分、3倍の重さであっても1時間で落命するとされています。
ブロック塀の場合、ブロック1個の重さは約10㎏です。建物の周囲に立てられる塀は、このブロックを9個から10個程度積み上げます。ブロック1個の幅は40センチ弱ですので、ブロック塀の幅が2メートルあるだけで、500㎏程度の重さ(中の鉄骨やコンクリートの重さは含まれていません)があることが分かります。小学4年生の平均体重が30㎏程度ですから、4倍にしても120㎏、ブロック塀が致命的な危険となることは、重さから判断することができます。

〇重さで見る身の回りの危険物

こうして重さで危険度を考えていくと、身の回りには様々な重量物があることがわかります。スクーターは150㎏程度ですし、オートバイになるともっと重くなります。バッテリーを搭載した電動アシスト自転車も35㎏程度あります。重さでとらえると、子供たちが駐輪場でいたずらをすることの危険性や、あるいは、いたずらはしないまでも、避難経路として駐輪場を通り抜けるルートを検討することがどれだけ危険かが分かってきます。
転倒防止のための固定が厳重に施されてはいますが、自動販売機は内容物(中の飲み物)と合わせると、800㎏以上あります。瓦も材質によって差がありますが、1枚あたり3㎏以上あるのが普通で、20坪程度の一軒家の場合、総重量は1~3トンにもなります。屋内に目を向ければ、4~5人家族向けの冷蔵庫ともなると、冷蔵庫だけで100㎏前後の重量となり、内容物を含めると、大人であっても危険な重量になる可能性があります。一般的なタンスは50㎏前後ですが、引っ越しを経験したことのある方であれば、毎日着ている服も少しまとめて段ボールに詰めただけで予想以上に重くなることに驚かれたことがあるでしょう。
何かに下敷きになってしまった場合、なんとかして這い出せるのではないか、あるいは、あきらめずにいたら誰かが掘り起こしてくれるかもしれない、と思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、そうした行動・活動の時間すら与えてくれないのが、重量物の恐ろしさなのです。
こうした重量物については、①重いものを認識して、災害時や避難時にはできるだけ近寄らない、②災害への備えとして出来る限り固定をする、ということが重要になります。

〇見逃せない重量物、人

身の回りの重量物として看過できないのが、人です。ひとたび群集事故が発生すると、必ずといってよいほど命を落とされる方がいるように、人の重さ、圧力というのは恐ろしいものです。さて、群集事故と聞くと、将棋倒しによって折り重なるように倒れ込む状況をイメージされるかもしれません。ゆえに、階段や坂道、段差のある場所は特に注意しなければいけない、と思われることでしょう。それはそれで正解なのですが、例えば2001年に兵庫県で発生した明石花火大会歩道橋事故や、2022年に韓国の梨泰院(イテウォン)で発生した圧死事故などの場合、そこで犠牲になった方々の多くは、立ったまま命を落としています。
冒頭にご紹介したように、人は自重の4倍の重さで圧迫されることで、10分程度で命を落とすことがあります。これは、何も上から押しつぶされている状況だけではなく、周囲から押されていたとしても同様なのです。具体的には、おしくらまんじゅうをしているような状態で、周囲から5人の人に押し付けられると、命の危険が生じるとされています。
そのため、混雑した状況というのは、とても危険な状況と言えます。例えば、地震などが発生して運休していた電車の運行が再開したという話を聞けば、多くの人が駅に殺到します。駅前の広い広場から狭い改札口や、プラットフォームへと向かう階段に人の密集の危険があります。あるいは、都市部の駅で導入が広がりつつあるホームドアは線路への転落は防止してくれる一方で、ホームを逃げ場のない袋小路状態にしてしまっています。焦らず、状況をしっかり確認して、人混みには近寄らないようにする安全意識が求められます。
なお、一般的に鉄道各社は、震度5弱以上の地震が発生した場合、全路線の線路の安全点検を実施し、被害が出ていないかを確認することになっています。(各社の独自基準であるため多少の違いはあります)皆さんが普段利用している路線の全てを点検する作業です。1時間や2時間で安全確認が終わるということは困難であることは、冷静に考えれば想像がつくことでしょう。発災後30分もしないうちに「〇〇線だけは復旧したらしい」といった誤った情報が流れてきても、無暗に信じて、人混みという大きな危険に自ら足を踏み入れることのないよう、一人ひとりが注意をするべきでしょう。

記事著者:国士舘大学 防災・救急救助総合研究所 嘱託研究員 佐伯 潤
イラスト:「しながわ防災学校ハンドブック」より引用