携帯トイレでは終わらない、災害時のトイレ事情

携帯トイレでは終わらない、災害時のトイレ事情

2024年10月30日
すぐ実践できる防災情報

〇地震が起きたら携帯トイレ

皆さんはご自宅や職場で携帯トイレの備蓄はお済ませでしょうか。最近は携帯トイレの認知度も徐々に高まり、備えているよ、という方も増えてきている印象を覚えますが、筆者が防災に関する教育訓練を実施していますと、まだまだ十分ではない印象を受けるのもまた事実です。水や食糧の備蓄は勿論重要ですが、入れたものは、必ず出ていく、ということで、今回は防災に欠かせない携帯トイレのお話しです。
携帯トイレについてまず重要なのは、備蓄数量です。皆さんは1日に何度用便されるでしょうか。5回程度の方もいらっしゃれば、もっと多い方もいらっしゃいます。それは人それぞれですし、小さい子供などは膀胱がまだ十分な大きさでなく、頻度はもっと多いですし、災害発生という特殊な環境下でいつもよりも多く用便をする可能性もあります。ビニル袋と脱臭剤のセットといったコンパクトなタイプの携帯トイレもありますので、100や200の単位で備蓄しておいたほうが安心です。
その携帯トイレを利用するタイミングですが、上水道が停止すれば、トイレの排水ができなくなりますから、当然携帯トイレの出番となりますが、携帯トイレを利用する目的はそれだけではありません。特にマンションなどの場合は、私たちが容易に観察できない集合排水管が地震によってズレたり破損している可能性が考えられます。一方で、貯水槽が設置されているために水はまだ使えるという状況で、何も考えずにトイレを流してしまえば、マンションのどこかで汚水が流れ出し、その後、マンション内の臭いなどがどのような状況になるかは想像に難くないところでしょう。
地震が起きたら、まずは携帯トイレの使用に切り替える、と考えておいたほうが、万が一の被害で大変な状況になってしまうことを回避できる可能性が高くなると言えるでしょう。

〇携帯トイレを備えた、だけでは終わらないトイレ対策

みなさんのご自宅のトイレを思い出してみてください。窓がついていますか。一戸建ての場合には窓がついていることが少なくありませんが、逆にマンションなどの場合には、窓がない場合のほうが多いのではないでしょうか。こうしたトイレは、災害によって停電が発生すれば、暗室となります。筆者の知り合いには落ち着くからという理由であえて灯りを消して用便をする人がいますが、誰しもが暗闇の中で用便をしたいわけではないでしょうし、特に携帯トイレを使用する場合は、灯りが無いと携帯トイレの処分に苦労します。
よって、携帯トイレと一緒に備えておいていただきたいのが、灯りです。ランタンのような灯りが1つあるだけで、十分です。逆に、トイレ用の灯りが無い場合、家族の誰かが用便をするたびに、用便が終わるまで誰かは暗闇の中でじっと待っていなければいけない、という状況になってしまう可能性もあります。それは、なかなかキツい話ですよね。
また、簡易のトイレの多くは、通常使用する便器にビニル袋を設置して用いるタイプですが、流さないとしても便器の中には水が残っている場合があります。携帯トイレを処分するたびに、便器内の水で外側が濡れた携帯トイレを触るのは嫌なものです。携帯トイレを使用する前に、一旦、便器に大きなゴミ袋などを用いて中敷きを設定し、その上から携帯トイレを使用すると、いちいち濡れた携帯トイレを処分する手間も省けます。ゴミ袋やそれを固定するための養生テープなども一緒に備蓄しておくべきでしょう。

〇災害で止まるインフラは電気や水道ばかりではない

ひとたび災害が発生すると、電気や水道といった社会インフラが停止する可能性があることを私たちは知っています。そのために様々な備蓄を進めていくわけですが、ここで忘れてはならないもう一つの社会インフラが、ゴミ収集です。ゴミ収集を担当する環境省では、災害が発生した後、3日以内にゴミ収集を再開させる計画を立てていますが、常に想定外を想定する必要があるのが防災です。
年末年始にゴミ収集もまた休業となり、ほんの数日なのに、正月休みの間にゴミがあっという間に溜まっていくことを思い出してみてください。災害時には、被害を受けたものの後片付けなども加わるため、一気にゴミが溜まっていきます。そこに、使用済み携帯トイレのゴミの山が加わることになります。
読者の皆さんも是非一度、携帯トイレを使ってみてください。利用にあたっての操作自体は比較的簡単で、ビニル袋を張り、用便の前もしくは後に脱臭剤を入れ(製品によって異なります)、用便を終えたら、袋の口を縛って処分するだけです。しかし、ここで注意が必要なのが、携帯トイレを処分する際に、できるだけビニル袋の中の空気を抜いてからビニル袋の口を縛ることです。試しに1個だけ使ってみるだけでは気づきづらいのですが、空気を抜いておかないと、瞬く間に風船の山を築くことになってしまいます。しかも、その風船の中には自分や、家族が出した排泄物が入っているわけです。誰であってもそんな袋の空気を抜いて縛り直すなんて作業はしたくないですよね。
携帯トイレ、ぜひ一度使ってみて、その処分の仕方を確認するとともに、使用済みの携帯トイレをまとめるためのゴミ袋(念のため二重にしておきたいですね)や、そのゴミ袋をためおくスペースの確認、万が一漏れ出した場合に掃除を便利にするためのブルーシートの準備も併せて進めておきたいものです。

記事著者:国士舘大学 防災・救急救助総合研究所 嘱託研究員 佐伯 潤
イラスト:「しながわ防災学校ハンドブック」より引用