防災の基本は自分の安全

防災の基本は自分の安全

2024年10月22日
すぐ実践できる防災情報

〇より確実な安全のためにプロの技術を学ぼう

世の中のあらゆる業種、分野にプロ、ベテラン、職人と呼ばれる方々がいます。防災を含め、肉体労働の要素を含む分野にもベテランがいて、そこには常に共通するいくつかの要素があります。その中でも代表的なものが、安全に対する備えではないでしょうか。
ベテランと呼ばれる方々の動きを見ていると、常に自分やお客様の安全を配慮した行動をとっていて、時には「そんなことも細かくチェックするのか!」と思えるところまで細心の注意を払っています。それ故に、安全が脅かされそうな可能性がある場合には、活動を中断する判断力にも優れています。子供たちが楽しみにしていた山のハイキングが、突然中止になって子供たちががっかりする、といった状況を目にしたことはありませんか。あるいは、みなさんが子供のころに中止、と言われて「えーー」と残念がった経験はお持ちじゃないでしょうか。しかしそれは何も意地悪をしているわけではなく、ガイドさんや引率の先生方が、例えば前日夜半の雨と登山道の状況を勘案して、子供たちが進むには危険だと考えた上での判断であるわけです。結果的に子供たちは誰一人ケガすることなく楽しく林間学校から帰ってくることができるのです。
プロやベテランと呼ばれる人たちは、常に安全を最優先にして判断、行動ができる人々なのです。

〇危険を知り、安全を深める

筆者も訓練や講習会などで多くの防災に関心のある方々と接することがありますが、そこでも、安全に関してベテランである人と、そうでない人の違いをはっきりと感じることがあります。多くの方々は、例えば大地震が発生した際の行動について考える時、避難所へ向かうこととか、家族の安否確認をどうするか、といったことを念頭に置いています。一方で、ベテランの方々は、自分の置かれた状況にどのような危険があるか、自分がケガをしないためにはどう行動すべきか(例えばまずはヘルメットを被る、など)を考えます。
ありていな表現をすれば、ベテランの方々ほど自分がケガをする可能性を意識して、安全であることにこだわります。そうでない方々は、自分がケガをするかもしれない、という可能性を意識しません。意地の悪い言い方をすれば、まるでスーパーヒーローか何かの様に、無敵の存在となって災害を切り抜けるイメージをもっておいでです。語弊のある言い方ですが、傍から見ていると、ベテランであるほど臆病で、様々な危険を想定しています。ただ、ベテランの方々は、臆病でありながらも、最も安全と思われる選択肢を見定めたときには、それを果敢に実行する勇気と技術を身に着けておられるのもまた事実です。
確実な防災の知識や技術を身に着けていくためには、身の回りにどのような危険が潜んでいて、それを把握した上で、そのリスクを排除することを目的意識にもって学びを深めていく必要があります。

〇安全が重要である理由

ここまで触れてきた安全ですが、安全にそこまでこだわる理由とはなんでしょうか。その理由は3つあります。①自分自身のため、②家族や仲間のため、③社会のため、です。
1つ目の理由、自分のためというのは至極当然な理由です。安全が守れない場合にはケガをするでしょうし、最悪の場合には、命を落としてしまう事も考えられます。そうした危険を回避するために安全が求められます。2つ目の家族や仲間のための安全についてです。ご案内の通り、大災害が発生すると、残念ながら多くの犠牲者が発生することがあります。程度を比較することが適切かどうかはさておき、こうした災害において、最も可哀そうな人というのは、筆者は、命を失くされた方以上に、残された方々であると感じています。両親や子供、親友など愛する人を失った悲しみは、倒壊した建物を建て直すように復旧できるものではありません。そうした周囲の人々が悲しみの沼に沈み込むことのないように、一人ひとりが安全と向き合う必要があるのです。
最後の社会のための安全ですが、これは単純な数の勘定で考えることが出来ます。大きなケガをした人を運ぶ救急車、この救急車に一度に載せられる怪我人は1人です。病院でもベッド1台に横になれる患者さんは1人です。医師や看護師などで構成されるチームが一度に手術できる患者もまた1人です。災害時に目の前で負傷している人がいたとします。無事に助け出すことができれば、必要となる救急車は1台、病院のベッドも1台で済みます。しかし、助けようとしたあなたが安全を無視したばかりに、助けに入ったあなたとあなたの友人の2人が更にケガをしてしまったらどうでしょうか。必要な救急車は3台となり、病院のベッドも3台となります。このような安全を無視した行動が被害を広げ、病院の資源をみるみる食い潰していってしまいます。社会のための安全とは、すなわち、一人ひとりが安全を配慮することにより、災害時の病院を医療崩壊から守ることに他なりません。医療崩壊が起きれば、つながるはずの命もつながらなくなり、悲しむ人も増えます。
防災について考えるとき、私たちはどれだけ安全について意識が出来ているでしょうか。どれだけの危険を想定できているでしょうか。自分の安全を最優先にできる防災を心掛けたいものです。

記事著者:国士舘大学 防災・救急救助総合研究所 嘱託研究員 佐伯 潤
イラスト:「しながわ防災学校ハンドブック」より引用